治療内容

医院紹介

はじめに

 理事長の私、山本悦秀は平成23(2011)年3月に金沢大学医学部教授を定年退職するまで40年余にわたり口腔外科の臨床に携わってきました。中央手術室では全身麻酔下による口腔癌手術受け口等に対する顎矯正手術に精力を注いできました。一方、外来では埋伏智歯の抜歯などの小手術が中心でした。永久歯の中で、最後に萌出してくる親知らず(智歯)は上顎・下顎を問わず、萌出スペースが足りない場合が多く、下顎では水平埋伏状態となって、その前隣の第2大臼歯にう蝕を発生させるなどの障害を来すため、抜歯の適応となります。一方、智歯を除く上下左右28本の歯は咬み合わせに参加する重要なもので、それぞれが連携しながら咀嚼・発音等の重要な口腔機能に関わっています。従って1本の歯が抜けるということはそれ1本の障害に留まらず、隣接歯の傾斜や対合歯の挺出や前歯部では審美的障害など1/28以上に大きな影響が出てきます。

 ところで、歯が自然に抜け落ちるあるいは歯科医院で抜歯される2大原因はう蝕と歯周病で、2005年の調査では前者が32%、後者が42%と全体の3/4を占めています。患者さんにとって「歯を抜かれる」ということは“寂しく、悲しい”ことで、できれば生涯、自分の歯で過ごしたいものですし、実際、20年以上にわたり歯科医師会が推進してきた8020運動(80歳時の自分の歯を20本以上保有)により、これを達成された方が2011年で38%に達したと発表されています。私は歯が無くなる寂寥感を、「一葉落ちて天下の秋を知る」の言葉を引用して、「一歯抜けて人生の秋を知る」と詠み変えています。そこで、私は患者さんにhappyと感じていただけるよう、できるだけ歯を残す手術を心掛けてきました。それを私は「歯を活かす口腔外科手術」と称していますが、その中でも頻度の高い「歯根端切除」と「自家歯牙移植・再植」から書き起こし、その後に以下の内容に従って、口腔外科疾患や手術全般のことについて触れたいと思います。

<内容>

1.歯を活かす口腔外科手術

1)歯根端切除術

(1)原因疾患と症状

 歯がうずく、歯ぐきがぷくっと腫れる、噛むと歯が痛むといった症状で歯科医院を受診された際、レントゲン写真で歯の根っこに黒く丸い病巣を指摘された経験のある患者さんも多いのではと思います。これこそが虫歯が元で起きる慢性炎症による最終病変の歯根嚢胞(根尖性歯周炎)です。 このように歯根嚢胞は虫歯による歯髄炎が根っこを越えて歯を支える歯槽骨に進んだものですが、歯髄炎の治療を受けないまま、これに至ることはむしろ稀で、大部分は歯科医院で根っこの治療(歯内療法=根管治療+根管充填)を受けて終了したあとに発生します。歯の神経(歯髄)の構造は根っこの付近では複雑なことが多く、いわば大河の流れが、河口付近で多くの支流を形成して、三角洲を形成するのに似ています。従って、歯科医師ができる根管治療に限界があることも稀ではありません。従って、死腔となった歯髄腔に根管充填剤を詰めても完全でないことがあり、その残った死腔の細菌が原因となって根尖の歯槽骨を溶かして嚢胞を形成するのです。

(2)治療は再根管治療が基本

 その治療は、病巣が小さい場合は、根管充填剤を除去して、再度、根管治療を行いますが、病巣が直径1cmほどの大きさになると治療に時間を要します。さらに既に歯冠部に修復物がかぶせられていますと、除去する行為も必要になります。ましてや高価な歯冠修復物であればなおさら温存したいものです。その際に、この歯根端切除術が極めて有用な治療となります。

(3) 歯根端切除の術式

 病巣付近の歯肉に局所麻酔を施したのち、病巣付近の歯肉に弧状の切開を加えて、粘膜骨膜弁を形成し、病巣に至ります。そして、病変周囲の歯槽骨を一部除去して嚢胞組織を嚢胞内に突き出た歯根端と共に除去・摘出します。摘出腔を整形・洗浄・消毒したのち、粘膜骨膜弁を元に戻して縫合し手術を終了します。なお、病巣が大きく、排膿があった場合には開放創として、軟膏を付着させたガーゼを挿入する場合もあります。所要時間は30分程度で、保険適応ですので患者さんの負担は多くありません。 術当日は要安静:術当日は抜歯などと同様、入浴や過度の運動やアルコールは避け、また抗菌剤や消炎鎮痛剤を服用していただきます。術後腫脹のピークは2日後頃で、それを過ぎると消腿していきます。1週間後に抜糸を行い、経過観察となります。

(4) 適応歯

 原則として根っこが一つ(単根)の前歯・小臼歯が適応となりますが、私は(複根の)大臼歯にも充分な経験を有しています。奥にある歯ほど根管の走行が複雑になって根管治療の成功率が低下しますので、後方の歯への歯根端手術の手技はより有効と言えます。

(5)経過

 半年後頃にレントゲン写真を撮影し、経過を観察しますが、黒かった根っこの部分が白くなっていれば、骨再生が発現していることを示しています。根っこは幾分短くなりますが、咬合機能には全く問題はありません。

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2)自家歯牙移植と意図的歯牙再植

(1)歯の構造

 歯は大きく歯肉の上で目に見える歯冠と歯槽骨という骨に植わっている歯根よりなっています。これを組成でみると、殆どが象牙質でその表層部に歯冠ではエナメル質、歯根ではセメント質が覆っています。また象牙質内には歯の外形に類似の歯髄腔があり、神経といわれる歯髄で満たされています。

(2)歯周組織としての歯根膜

 そして、歯の歯根部セメント質と歯槽骨の間は歯根膜線維あるいは歯周靱帯と総称する無数の線維で連結され、噛む力を緩衝するハンモックの役割を果たしています。これを歯科用デンタルX線写真でみてみると、歯の外周と歯槽骨外壁の歯槽硬線との間の黒い線として観察され、歯根膜空隙と称しています。この歯根膜は活性が高く、外傷などで断裂や損傷があっても早期に修復する能力を有しており、0.15~0.38mmという一定の空隙幅を維持しています。そして、この高い修復能力を利用するのが自家歯牙移植なのです。なお、歯周組織とは歯を支える組織の意味で、歯肉と共に、これらセメント質、歯根膜、歯槽骨の4つで構成されています。

(3)ドナー(提供歯)は智歯が主体

 ドナーとなる歯は咬み合わせに関与していない不働歯(ふどうし)が一般的なため、智歯が主体となります。従って、レシピエント(受給部)は形状が類似している第1、第2大臼歯部で虫歯で根っこだけとなり、歯冠修復が不可能なもの、あるいは既に抜歯されている部位が適応となります。その場合、上下左右の別は問いません。また咬み合わせからはみ出した小臼歯もドナーになり得ます。一方、特殊例として、埋伏している前歯・小臼歯を抜歯して本来の位置に移植する場合もあります。

(4)実際の術式

 ドナーが智歯の場合を例に述べます。ドナー側、レシピエント側の局所麻酔を施したのち、慎重にドナーとなる智歯を抜歯します。より愛護的に抜歯すると歯根の表面全体に光沢のある軟組織が付着していることが確認できますが、これが歯根膜です。生理食塩水に浸漬した状態で、歯根が未完成であればそのまま、歯根が完成していれば、抜髄+根管充填の前処置を行っておきます。レシピエント側の歯槽骨をドナー歯根の形状にあわせて削り、新しい歯槽窩を形成します。微調整を重ねながら、ドナー歯を同部に移植します。縫合糸で歯を押さえ込むように固定し手術を終了します。経過が良ければ2週間後に抜糸しますが、その頃には移植歯はほぼ新しい部位にしっかりと固定された状態になります。移植1か月後頃に歯冠修復をして一連の操作が終了します。この移植歯はほぼ永久的に従来の歯と同じ働きをすることが期待できます。なお、保険適応は未完成歯根状態の下顎智歯をその前方の大臼歯部に移植する場合のみとなっていますので、それ以外は別途の費用を要します。

(5)意図的再植は歯根端切除の代替治療

 意図的再植とは、歯根嚢胞などの根尖病変がある場合に歯根端切除を行わず、一端、抜歯して根尖部の嚢胞を摘出し、歯根端切除を体外で行ってから、同じ部位に再植するものです。解剖学的には頬側(ほっぺた側の歯肉)の歯槽骨が厚く、歯根端切除の手術操作が困難な下顎第2大臼歯、あるいは上顎小臼歯・大臼歯で口蓋側に歯根嚢胞が存在し、頬側からは上顎洞経由となって手術不可能な場合などが適応となります。一方、患者さんの希望で歯肉に切開を加えたくない場合も一つの選択となります。なお再植の場合は、歯根形態と歯槽窩はぴったりと適合しますので、移植よりも早い治癒が期待できます。

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3)歯根破折歯への対応

 抜歯の適応となる2大要因は虫歯と歯周病であることは既に述べましたが、この歯根破折も統計では抜歯要因の11%を占め、いわば第3位の大きな問題となってきています。それらの歯の多くは歯冠が大きく崩壊したため、まずは土台をつくりその上に金属などで歯冠を修復したもので、歯根が日常的な長期間の咬合圧に負けて、縦あるいは斜めに破折してしまうのです。
 そこで、複根歯の大臼歯の場合には、破折した歯根のみを除去して経過をみますが、歯としては概ね機能しています。一方、前歯・小臼歯の単根歯では、局所麻酔下に一旦抜歯し、接着剤で破折部を接着させて歯根形態を修復し、再植する場合があります。私は経験が少ないですが、基本的に一般的な再植とほぼ同様の経過をたどるとされており、これまで抜歯されてきた破折歯の救済の道は明るいものとなっています。

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4)外傷による脱落歯の再植

 スポーツ、転倒、殴打や交通事故等で顔面に強い外力が加わりますと、口唇や顔面皮膚の挫創、裂創、あるいは口腔内の軟組織の裂創に加え、前歯・小臼歯にも障害が生じます。多少、動揺が生じる「外傷性歯周炎」では局所安静で治癒しますが、歯が歯槽窩から少し飛び出した「歯牙脱臼」や完全に歯槽窩から飛び出してしまう「歯牙脱落(=完全脱臼)」では処置が必要となります。前者では局所麻酔下に元の位置まで戻し、周囲の歯を利用して固定処置を行いますが、経過は殆ど良好です。なお、脱臼に歯槽骨折を合併した場合も同様の修復処置で完全治癒が期待できます。
 一方、後者の脱落歯では状況により、その後の経過がかなり異なってきます。受傷により患者さんは動揺しているでしょうが、まずは脱落歯の保存です。口腔内の抜歯窩に自ら戻すのが理想的ですが疼痛を伴いますので、口腔内の舌下部や唇側部に入れておくのが次善です。それもいやなら身体のpHが近似の牛乳に保存するのが良いとされています。歯根膜は活性が高い分、乾燥に弱く、時間との争いとなります。「黄金の30分」と言われ、概ね30分以内ですと、再植により生着して、概ね通常の歯を同様の経過をたどります。それ以上、体外にある時間が長くなりますと、それに応じて経過不良となっていきます。すなわち、歯は一応生着はしますが、歯根膜が死滅した歯根は生体からは異物と見なされ、破歯細胞によって吸収され、数年~十数年を経て、歯根が全て無くなる頃に脱落してしまいます。それでも一定期間は自分の歯で噛むことができますので、再植しないという選択はありません。かつて、専門外の医師はもちろん、歯科医師の中にもこういった知識がなく、脱臼歯さえ抜歯してしまったり、積極的に再植処置を行わなかったことを聞き、残念に思ったことがあります。今はそうではないことを願っています。

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付)歯牙外傷予防としてのマウスガードの装用

 各種スポーツの中でもボクシングやホッケーなど選手同士が激しく接触する競技ではマウスガードが頻用されており、私がかつて医学部ラグビー部の顧問をしていた際、平成16年より医科学生大会での装用が必須となり、私と歯科医師の妻で合計76個のマウスガードを製作したことがあります。これは上顎の歯型を取って、その模型を利用して、柔らかい材質のEVAシート材を用いて各個人に適合したマウスガードを作成するもので、ネームを貼り付けることもできます。なおこれは治療ではありませんので、一般料金となります。装用した感想はいずれも好評だった記憶があります。
 また、この装用により、競技能力の向上や脳震盪の軽減効果も期待できるとされています。

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2.その他で頻度の高い口腔外科手術

5)インプラント埋入:インプラントは歯科を一変させた技術革新

 歯が抜けてしまった場所にもう一度、別の歯を埋められないかという考えは、古代ローマ時代からあり、奴隷の歯を高位の人に埋めたという史実があります。当時は当然のこととして、免疫学的知識(自己、非自己)がなく移植歯は脱落する運命にありました。この他家歯牙移植は現代における自家歯牙移植へとつながる源流でもあった訳で、歯根膜負担という歯本来の機能を再生させるのですから、生物学的には最も理にかなった技法です(既述)。しかしながら、ドナーとなる歯は原則として自己の智歯などの不働歯に限られるため、適応例に限界があります。
 一方、歯に変わるものとして、第2次世界大戦前後の頃には、この領域に関心のあった歯科医師によって竹が代用歯根として使われたこともあったようです。1970年代に入って、サファイヤが人工歯根として企業の製品となり、一定の成果が報告されています。現在でも、このサファイヤ・インプラントが有効に機能している患者さんを稀に拝見できます。

 しかしながら、この流れとは全く異なるところから、チタン(タイタニウム、チタニウム:titanium)という金属を用いる近代インプラント学が芽生えました。「1952年、ベル・イングヴァール・ブローネマルク教授がスウェーデンのルンド大学の小さな研究室で、偶然にチタンが拒否反応などを伴わずに生活骨組織と結合することを発見したことで、一筋の灯りがともった。それから13年が経過した65年、無歯顎症例へのチタン製人工歯根の臨床応用が初めて実施された。26年以上経過した現在でも完璧に近い状態で機能を果たしているという。(日刊工業新聞1991年6月6日版)」  そして、この顎骨の直接、人工歯根を植え付けるブローネマルク・インプラントシステムは1983年6月7日に、教授自身が来日され、東京歯科大学病院で62歳の無歯顎の女性に第1例目が施術されたのが、我が国における最初です。当時は、なお本インプラントシステムに懐疑的な雰囲気があったようですが、その後、徐々に確実にそして時を経て加速度的、爆発的に普及し現在に至っています。

 理事長の私・山本悦秀はその重要性を早期から認識していましたので、金沢大学歯科口腔外科の教授になって2年目の1989年8月に、ブローネマルク教授が応用生体工学研究所長になっておられたイエテボリ大学での4日間のインプラント研修に参加しました。そして、1993年4月に舌癌で無歯顎となった26歳男性に第1例目を金沢大学病院中央手術室で全身麻酔下で埋入手術を施行し、現在も経過良好です。その後は、教室員に任せ、私自身はインプラント処置は行ってきませんでしたが、2007年10月、当時、金沢で開業していた院長である妻から要請を受け、再開し、今日に至っています。

 私は第一線の口腔外科医として40年以上にわたって大きな顎骨の手術などを手がけてきましたので、インプラントの埋入処置は決められた手順に従って行えば安全で易しい処置に属し、良い成績を挙げています。人工歯根であるフィクスチャーの上にアバットメントを連結して上部構造の歯冠を装着する一連の処置はベテランの院長が施行しており、患者さんの満足を得られています。費用はそれなりにかかりますが、その対価は充分にあると確信しています。気軽にご相談下さい。

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6)埋伏智歯の抜去:遅咲きの親知らずは椅子取りゲームに負ける(城南歯報第9号より)

 下顎の智歯、通称「親知らず(歯式では第3大臼歯)」を抜くのは怖い、抜歯操作時は痛い、と思っておられる方も多いかと思いますが、私・理事長はこれまで数千本の智歯抜去を経験してきました。“無痛下に、出来るだけ速く”抜歯する手技は自認しています。どうか安心して御来院下さい。
 さて、「親知らず」という呼称の由来を文献的に検索した訳ではないですが、人生40年程度だった明治時代までは、それこそ親知らずが生える頃には親は存命していないということだったのでしょう。世界的には、智歯(知恵歯)が一般的で英語ではwisdom tooth、ドイツ語では Weisszahnと言います。昭和30年代後半の高度経済成長時代から栄養が良くなり、顎の発育よりも歯の発育が勝り、骨体部という、歯が生える部分に歯が入りきらなくなる傾向が強くなっているようです。実際、私が日常臨床で抜歯している下顎智歯は堂々としていて、その前方に位置する第1、第2大臼歯に劣らないサイズを示すことが多いです。こうして後発の、いわば末っ子の下顎智歯は“椅子取りゲーム”に負けて、斜めまたは完全に横向きとなって前方に隣接する第2大臼歯の虫歯を誘発する存在となることが多いのです。従って、智歯周囲炎を繰り返している場合や、第2大臼歯遠心部に虫歯を惹起している場合は、早期に抜歯することをお勧めします。

 智歯を悪者のという述べてきましたが、有効利用できる場合があります。それは既述のように、第1、第2大臼歯が抜けてしまった際に、智歯を自家移植することが出来ます。従って、何でもかんでもすぐに抜歯という必要はなく、炎症症状がなければそのまま置いておくことができます。
 一方、上顎の親知らずで、骨体が足りない場合、下顎と異なり、ほっぺた側や後ろの方向に歯冠が生え、虫歯になり易く、また頬粘膜を噛んでしまうことがあります。その場合は、抜歯の適応となりますが、下顎に比べて侵襲も少なく、それほど難しくありません。実際の抜歯に当たっては、コツがあって、口をわずかに開ける程度が適切で、抜歯用のヘーベル(挺子)が第2大臼歯と智歯の間に適切に入れば、テコの作用で簡単に抜くことができます。 以上、いささか自慢に過ぎたかも知れませんが、智歯の抜歯はお任せ下さい。お待ちいています。

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7)粘液嚢胞の摘出:下唇の誤咬で小さな唾液腺が閉塞して発生

 粘液嚢胞(唾液貯留嚢胞)は下唇の口角寄りの場所に半球状の腫瘤として発症するのが最も典型的ですので、これを紹介します。そもそも口の中が常に湿潤状態となっているのは、唾液腺から唾液が常に一定以上排出されているからです。この唾液腺には大小のものがあり、大きなものは、顎下腺、耳下腺および舌下腺の3つでそれぞれ左右一対で6個あり、唾液腺管(排泄管)を通して口の中に開口しています。一方、小さなものは、口唇腺、口蓋腺、頬腺、臼歯腺および舌腺の5つで口唇腺のみが口唇周囲にリング状に存在する以外はやはり左右一対となっていますが、いずれも排泄管はなく粘膜面にしみ出すように排出されるので肉眼的に観察することはできません。

 この小さな唾液腺の出口が歯や硬い食物により、物理的に損傷を受けて閉塞すると、唾液が貯留する嚢胞が形成される訳です。中でも、よく発生するものは口唇腺、舌腺、それと舌下腺のうち、大きな唾液腺管を介さないで唾液を排出する口腔舌下腺です。口唇の粘液嚢胞の刺激要因は歯です。人間の前歯部は上の歯が下の歯の前に位置するのが正常な咬合ですが、下唇を誤って噛んでしまう場合があり、それは犬歯部で多いので、ここに好発します。サイズはほぼ1センチ前後で形状は球状ですが、肉眼的には上方の半分が膨隆して半球状を呈しますので診断は容易です。

 手術は局所麻酔下に膨隆面に左右方向に紡錘形の切開を加え、この粘膜を含め、鈍的に剥離して、摘出・縫合します。縫合部は口の中側ですので、全く目立ちません。術後、摘出部が一時的に陥凹しますが、また回復して左右対称になります。なお再発を防止するには、自分で誤咬に注意するほか、犬歯の歯並びが悪い場合は歯列矯正をしたり、上下の犬歯の切端部を少し丸くする方法があります。

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3.手術によらない口腔外科的疾患

8)顎関節症:ストレス過多時代の人類の現代病の一つ!?

 顎関節症(がく・かんせつしょう、がっかんせつしょう)は顎運動時の顎関節部の疼痛、雑音、開口障害を主訴とする、明らかな炎症症状を伴わない慢性疾患で、1956年に私の恩師であった東京医科歯科大学第一口腔外科の上野正教授により、英語名のtemporomandibular arthrosisを参考に命名されたものです。その発症要因については以下のように考えられます。

(1)人類だけが直立したという進化論的要因(城南歯報第12号より)

 人類は、200万年ほど前に猿人から進化して原人となり、現在の人類の元である新人は20万年前にアフリカで出現したとされます。立って四つ足から二足歩行となった人類は、大きな脳を獲得して知能を飛躍的に増すと共に、自由に動かせる手と相俟って多くのモノを作り出して今日に至っています。
 一方、立ったことで、生体学的に問題となったともあります。その大きな一つは腰痛、そして、顎関節症もその一つでしょう。すなわち、人類は立ったことで、大きく開口したい場合には、頸椎の邪魔にならないように、下顎骨を前方に滑走させる必要性に迫られました。こうして、顎関節部に介在する関節円板が、この滑走運動に連動して前方に動く際に、ひっかかったりして疼痛、雑音、開口障害を発症するようになったのです。これに加え、以下に述べる軟食傾向で噛む筋肉や下顎骨の発達が少ない現状や、ストレスによる歯ぎしりなどの要因が加わって、若い女性を中心に全年齢層で増加する傾向になったと考えられます。
 初回治療としては、まず関節に負担がかからないようにスプリントを装着することがお勧めです。風邪などを引いたら横になって休養すると同様、このスプリントを用いて関節に安静を与えることで、症状が改善してきます。

(2)軟食化時代による解剖学的脆弱性や不良な咬合関係の要因

 20年ほど前の1990年代に、日本咀嚼学会の斎藤 滋神奈川歯科大学教授と料理研究家の永山久夫氏との共同研究で、古代食を復元し、食事1回あたりの咀嚼回数を分析しました。その結果、卑弥呼は3990回、源頼朝は2654回、徳川家康は1465回、戦前の一般庶民では1420回であったのに対し、軟食の現在では620回にとどまったというセンセーショナルな報告がありました。このように噛む回数が減少すると、咬筋を代表とする咀嚼筋群の発達が弱いため、上下顎骨も華奢な構造にとどまって、咬合状態も不良となり、咀嚼時に顎関節への負担が増加することになったとされています。

(3)ストレスに関連した歯ぎしりの要因

 さらに、現代のストレスフルな時代での歯ぎしりも大きな問題となっています。歯ぎしり(ブラキシズム:bruxism)には、グラインディング(grinding:上下顎歯をすりあわせて雑音を発生させる歯ぎしり)、クレンチング(clenching:上下顎歯の強いかみしめ)、タッピング(tapping:咀嚼様のカチカチ運動)の3種類があります。特に夜間のグラインディングやクレンチングは起きている時よりも相当に強い力で噛みしめるため、やはり顎関節に負荷がかかります。

(4)歯ぎしりの延長としてのTCH(歯列接触癖)という新しい概念

 最近、私の東京医科歯科大学第一口腔外科学教室時代の後輩でもある同大学病院顎関節治療部長の木野孔司准教授らを中心に、tooth contacting habit(TCH)という考えが提唱されています。これは昼間時の無意識のクレンチングが顎関節症状を悪化させるとして、警鐘を鳴らしています。これに対し、認知行動療法に準じて、「歯を離してリラックス」と書いたメモ用紙を自宅や仕事場の目立つ所に貼り、それを意識させることで、効果を上げているようです。
 以上、顎関節症は上記の複合要因によって発症することがわかってきましたので、それに対応する治療が行われるようになりました。初期治療としてのスプリント療法や認知行動療法としての「貼り紙法」はその代表的なもので、一方、顎関節の病変部を手術的に治そうとする方法はごく稀な重症例に限定されるようになっています。

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9)ドライマウス:教授時代に千百名余の患者さんを拝見しました

 ドライマウス(dry mouth)は「乾いた口」と訳すことができ、唾液腺から排出される唾液量が少なく、口腔内の乾きを自覚し、また他覚的にもその乾燥所見がある状態を言います。ドライアイ(dry eye)とともに、我が国では八百万人以上の方がおられると推定されています。
 患者さんが3か月以上の口の乾きを感じた場合、どの診療科を受診するかというと、内科、耳鼻科、歯科といった科が多いようです。私は金沢大学歯科口腔外科の教授であった2004年からドライマウス外来を開設し、定年までの六年半に千百五十二名の患者さんを拝見することができました。この臨床研究を論文にまとめ、大学院時代の歯学博士に次いで、医学博士の学位を受領することができました。ここでは臨床の概要を紹介します。

(1)「口の乾き」と「のどの渇き」は近いが異なる

 「かわき」を漢字転換する2つが検索されます。以下の渇き(口渇:thirst)は、いわば「のどの渇き」で、脱水を含め全身の水分が不足した状態で、最も重篤な状況が熱中症(Heat-overloaded syndrome)です。一方、乾き(dryness)は唾液が少なくて口の乾きを感じるもので、緊張して唾液分泌量が減少した時の感覚です。3か月以上継続すると、病的なものも考える必要があります。
 なお、「のどの渇き(全身の脱水)」は唾液分泌に影響を及ぼすため、口の乾きと連動します。

(2)従って、唾液量の測定は必須

 静かな部屋で唾液量を測定します。低唾液量判定の基準値は、安静時1.5ml/15分以下、ガム咀嚼時10ml/10分以下とされています。その数値により、唾液分泌減少症あるいは低唾液分泌症(hypo-salivation)と診断されます。

(3)ドライマウスの重症例としての「シェーグレン症候群」

 スェーデンの眼科医シェーグレン博士が、涙腺と唾液腺を主な標的臓器とする全身性の自己免疫疾患について1933年に発表されたものです。自己の唾液腺の細胞を異物とみなし、リンパ球により障害されるため、唾液分泌機能が強く低下し、口腔乾燥症を発症します。症状が進行すると、舌の表面がひび割れ状態となり、大変な苦痛を強いることになります。  2000年に唾液分泌促進剤として塩酸セビメリンが発売され、患者さんへの大きな福音となっています。私がドライマウス外来を立ち上げたのも、これを皆さんに知っていただきたいという思いからでした。

(4)ドライマウス継発する口腔カンジダ症や全顎性の歯茎部う蝕

 真菌(カビ)であるカンジダは本来、口腔内でも常在しており、免疫低下状態や唾液分泌減少症等で発症します。臨床的には萎縮性(紅斑)、偽膜性、稀に肥厚性に3つに分類され、関連病変として、義歯性口内炎、正中菱形舌炎、口角炎(いずれも萎縮性)があります。基本的に、抗真菌剤は軟膏、内服とも有効です。唾液量を増加させることで消失する場合もあります。  また唾液が少ないと、食物の流れが悪く、歯と歯茎の境に食物が停滞し、そこから虫歯が発症する歯茎部う蝕が全歯に見られるようになります。

(5)夜間口腔乾燥症

 深夜就寝中に尿意で目が覚めた時に口の乾きを感じることはよく経験することと思います。就寝中の全身からの水分の不感蒸泄も200ml程度ありますが、主な原因は口を開けて眠っていることです。そうすると、口腔内の粘液(唾液)が蒸発して、ひかひかになり、舌が口蓋にくっついてしまいますが、病的なものではありません。立体マスクの装用や、就寝前にオーラルバランス等を舌表面を中心に塗布しておくと防ぐことができます。

(6)唾液量がむしろ多い「舌痛症」は、やっかいな病気

 舌表面に器質的な変化が認められないにも関わらず、舌尖や舌側縁がぴりぴりするもので、時に口唇や口蓋におよぶため、英語ではburning mouth syndorome(邦訳:口腔灼熱感症候群)と呼称されています。特徴は中高年女性に多い、食事中は痛みが少ない、唾液量は一般に多い、歯が要因の場合もある、舌癌を心配しているなどである。原因は不明であるが、抗不安薬が有効であることから、神経回路の混線ではないかとの仮説が提唱されている。 一般の消炎鎮痛剤は無効であり、また、唾液量を測定せずに、口腔乾燥症と診断されて塩酸セビメリンが誤処方され、症状が全く改善しない症例を経験しているので要注意です。

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10)各種口腔粘膜疾患

 口の粘膜は、天然歯や義歯あるいは多種多様な食物の刺激を受ける部位であり、また消化器や全身の健康状態を写す鏡とされ、多くの病変は発症します。ここではその代表的な疾患を紹介します。

(1)扁平苔癬

 左右の頬粘膜に周囲に発赤を伴うレース編み状の白色病変として観察されるのが、典型的な病変で、接触痛や食物がしみる症状があります。原因不明で難治性です。歯科用金属アレルギーとの関連があるとするものも報告されています。治療はステロイド軟膏の塗布など、対症療法が中心となります。

(2)アフタ、アフタ性口内炎

 アフタは直系数ミリの円形病変で、複数の場合もあります。浅い潰瘍部は灰白色の偽膜で覆われ、周囲が赤くなっているのが特徴です。接触痛が強く、それで病変を患者さん自身で認識することが多いです。風邪など免疫力が低下した場合などに発症することが多いようです。概ね、放置しておいても2週間ほどで治癒しますが、再発することも少なくありません。ステロイド入り軟膏(デキサルチン、ケナログ、アフタゾロン)などを塗布すると症状が軽減し、早く治癒します。

(3)前癌病変としての白板症

 喫煙や多量飲酒をされる方に多く見られるのがこの白板症です。一定領域の範囲で白い平坦な病変として観察され、当然、拭き取ることは出来ません。前癌病変とされ、多くの報告がありますが、5年で5%前後が癌化するとされています。凹凸が出来たり、一部に赤い病変ができると要注意です。

(4)口腔粘膜癌

 口の中にも癌ができますが、その殆どは粘膜由来の扁平上皮癌です。代表的なものは舌癌、下顎歯肉癌、頬粘膜癌、口底癌です。私は大学卒業後、大学院で口腔癌の研究を始めて以来、ずっと続けてきました。その研究により43歳で教授に推挙され、さらに研究を加速することができました。その結果、口腔癌を主な研究領域とする日本口腔腫瘍学会の理事長を定年前の4年間務めさせていただきました。

 現役時代には約1000例の症例を経験してきましたが、直系2cm以下の初期の口腔癌の臨床像は概ね6型あります(鷲津:1973年)。すなわち、まずは発育方向から、外向型と内向型に大別し、前者には白斑型、乳頭型、肉芽型があり、後者にはびらん型、潰瘍型、腫瘤硬結型の計6型です。性格的には内向型のほうがタチが悪い傾向にあります。

 治療は手術と放射線が2大治療法で、これに化学療法や免疫療法が補助的に用いられます。治療成績は、もちろん早期癌ほど良いですが、平均すると、7割以上の5年生存率が得られています。

 禁煙や禁酒に加え、口の中をいつも清潔にし、尖った虫歯をそのまま放置しないこと、入れ歯も原則として夜にははずすこと等のケアが口腔癌の発生予防と言えます。

 

(5)癌恐怖症としての舌扁桃、舌痛症、口蓋隆起

 テレビの健康番組などで口腔癌が放映された翌日に多くの方が心配になって病院を訪れることはよく経験しています。その中では上記の3つが主なものでしょう。舌扁桃は舌の左右の根元のぷつぷつとして観察されます。実はのどの入り口をぐるっと輪状に囲んでいて、ウイルスや細菌などの外敵の侵入を排除するために存在する善玉です。また口蓋正中部に前後に細長い出っ張りのある場合があります。骨そのもので入れ歯の邪魔にならない限り、特に加療の必要はありません。一方、舌痛症は既に述べましたように、痛みのみがありますのでつい心配になります。受診されることは安心にためにもとても良いことと思います。

 

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4.歯周外科

 私を始め大学病院勤務の口腔外科医は口腔癌や顎変形症などのいわゆるメジャーな手術に力点を置いて研究・研修を続けてきました。一方、歯周外科は歯周病の予防や治療の一環として、歯周治療医により、研究が推進されてきましたので、口腔外科医にとっては近くて遠い存在でした。しかしながら、外科的素養は充分にありますので、3年前の定年後から、この歯周外科に関する雑誌、ビデオや直接の講演等で勉強し、患者さんに試みていますが、とても良い結果が得られています。

付.骨粗鬆症治療薬と顎骨壊死

 2003年に米国の口腔外科医Marxにより初めて骨粗鬆治療薬服用患者に観察される顎骨壊死(本体は骨髄炎とされている)が報告された。以来、我が国でも口腔外科学会加入施設を中心に症例が蓄積されている。発症頻度はかなり低いですが注射剤による発症率が内服剤より高いです。抜歯等の外科的処置に際して、休薬はしない傾向にあり、抗菌剤の投与、愛護的外科処置や術後縫合などでその発症率を減少できます。もちろん、骨壊死が発症しても適切に処置を行えば治癒しますので、ご相談下さい。

治療に関するご相談・ご予約はお電話で受け付けております。
TEL:03-6426-6228
(平日9:00~13:00/14:00~17:00/土日祝:休診)

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